オフィス家具と Microsoft Surface で実現を目指す「働き方を変える」という価値創造。金沢の老舗家具メーカーが取り組む経営戦略としてのオフィス改革
2024 年 5 月、石川県金沢市で「第 39 回 いしかわ情報システムフェア『e-messe kanazawa2024』」が開催されました。毎年、北陸地区の ICT 関連企業を始め、さまざまな業種から多くの企業が集結し、働き方改革やデジタルトランスフォーメーションをテーマとしたセミナーやワークショップが行われるなど、活気に満ちたイベントです。中でも今回注目を集めていたのが、オフィス家具の販売や内装工事を手がける「山岸製作所」のブースです。
同社は、実際に働いている自社オフィスを「働き方改革のショールーム」として公開し、”働き方”と”働く場”を一体的に提案する独自のサービス「L’SCENA リシェーナ」を展開しています。展示会会場のブースには自社オフィスがスモールモデルで再現され、来場者は山岸製作所の快適で機能的なオフィスを体験していました。
洗練された自社のオフィス家具と、Microsoft のハードウェアである PC の Surface やコラボレーションデバイスの Surface Hubなどが展示されたブースで、山岸製作所の代表取締役社長である山岸晋作氏に、働き方改革への想いや取り組みについてお話をうかがいました。
自分たちの改革ストーリーが新しい価値になる
石川県金沢市に本社を構える山岸製作所は、1963 年に創業した老舗企業です。しかし、看板事業であった木工家具の製造部門は業績が伸びず、2012 年には大幅な赤字を計上するなど、会社の存続が危ぶまれる状況に陥ります。危機感を抱いた 6 代目社長の山岸晋作氏は、思い切った決断を下します。
「創業以来、木工家具の製造を行ってきましたが、財務的に厳しい状況が続いていました。販売部門が利益を出しても製造部門が足を引っ張る形になっていて、どうにも立ち行かなくなっていたんです。もうこれ以上は背に腹は代えられないと判断し、不採算部門の操業停止を決断しました。会社存続のための止血措置でしたね」と山岸氏は当時を振り返ります。
ゼロから物を作りだすという価値を失うことは、山岸製作所にとって苦渋の決断でもありました。しかし、この決断から、現在に繋がる新しい価値の創出が始まっていきます。
「木工家具の操業停止を決めた一方で、では代わりとなる新しい価値は何だろうと考えました。モノを作る価値がなくなり、地域にどう貢献していくか。その答えが『働き方』という形で見えてきたんです。家具という『モノ』を売るのではなく、家具の上に乗る価値、すなわち『働き方』を提案し、提供していく。人々の働き方を変えていくことが、我々のめざすべき方向だと考えました」(山岸氏)
働き方改革は、まず自社オフィスを変えることからはじまりました。それまでの、誰が見ても古いと感じる事務机が島型に配置されたオフィスをフリーアドレスに変更。わざわざ注文書や稟議書のために会社に戻る手間を無くすため直行直帰にするなど、働き方の効率化を進めていく中で、山岸氏はオフィス改革と ICT が切り離せないものだと実感します。
「まず自分たちでやってみないと紹介できない、ということでオフィス改革を始めたのですが、やればやるほど ICT、デジタル化が必要だと思い知らされました。フリーアドレスをはじめたらタブレットが必要になる、タブレットを使うなら無線 LAN が必要、直行直帰するなら出退勤管理もデジタル化が必要。そのような感じで、働くことに価値を生み出そうと思ったら、自然と目の前のことをデジタル化せざるを得なくなるんです」(山岸氏)
折しも日本中にコロナ感染が広がるタイミングで、山岸製作所の取り組みはその成果を遺憾なく発揮したと言います。
「オフィス改革を進めた結果、この働き方なら家でもテレワークできるよね、と思えるものになったのです。そこでテレワークをはじめたところ、新型コロナウイルスが世の中で広まりったのです。タイミングもありましたが、周囲からは「山岸さん、古い家具屋なのに何でテレワークできてるの?」とかなり注目されました。その時に「これだ」と気づいたのです。こういう働き方をどうやって伝えていくかが価値になっていくのだろうなと。」(山岸氏)
創業事業を切る際も、新たな改革に取り組む際も、思い切った覚悟と決断で進めていった結果、見えてきた景色の中に価値があったと山岸氏は語ります。
「最初からたどり着くゴール設定があったわけではありません。計算ではなく、自分たちで信じられる価値を作り続けていたら、それが結果として地域に貢献できる価値に繋がっていった、という感じです」(山岸氏)
山岸製作所とマイクロソフト製品が提案するオフィス改革の親和性
山岸製作所は自社のデジタル化を任せた ICT パートナーと共に、オフィス改革とデジタル化を、コンサルティングから導入まで一貫したサービスとして提供しています。
従業員のデバイスとして Microsoft Surface を採用している理由は、自社の実用体験とともに、そのデザイン性と機能性であると山岸氏は話します。
「フリーアドレス化は働き方改革に向けた大きな第一歩です。私たちはやっぱり、自分たちで体験したことを伝えていくしかありません。Surface シリーズは、そのスタイリッシュなデザインが当社の提案するオフィスにも見事にマッチしていますし、Microsoft Teamsはチャットや Web 会議で、どんな場所にいても円滑でシームレスな繋がりを可能にしてくれます」
実際に自社で Surface を導入した際は、思いもよらない効果も生まれたと言います。
「業務で利用している社員からは、『Surface なら外出先でも積極的に使いたい』と好評でした。Surface を使うことが仕事へのモチベーションにもなっているようですね。移動中などのスキマ時間にも Surface を活用しており、業務の効率化と生産性向上につながっています」(山岸氏)
また、Surface Hub は山岸製作所が提案するオフィス家具のコンセプトであるカジュアルなコミュニケーションの実現にもマッチしていると評価します。
「大画面ディスプレイとキャスター付きスタンドを備えた Surface Hub は、ミーティングスペースに合わせて自由に移動できるので、座る位置に関わらずカジュアルなコミュニケーションが可能です。リモートワークを行う社員との Web 会議でも、臨場感あるコミュニケーションを実現できます」(山岸氏)
会場のブースでは、山岸製作所とマイクロソフトが交互にブース内でセミナーを展開していましたが、そのテーマにも確かな価値の協創が見て取れました。山岸氏もその点は強くうなずいてこう繋げます。
「私たちは空間やファシリティで働き方、人の動き方をより上質なものにしていく。マイクロソフトはデジタル技術で形をつなぎ、コミュニケーションをつなぎ、新たな働き方を実現していく。そこに確かな親和性があると感じています」(山岸氏)
人が集まる会社、人が定着する会社を目指して
山岸製作所が提案する働き方改革の特徴のひとつは、従業員のエンゲージメント向上を重視している点にあります。山岸氏が印象的なエピソードを披露してくれました。
「ある女性社員で、産休に入ったと同時にご主人の大阪転勤が決まった人がいたのです。彼女は店舗スタッフだったのですが、産休後に店舗に復帰するのは難しい状況でした。でも、彼女は山岸製作所が大好きで、何とか働き続けられる方法はないかと相談してきたのです」
この会社で働きたい、という熱意は何より大切にすべきものだと山岸氏は言います。
「であれば、職種を変えて、レイアウトデザインの仕事ならリモートでもできるよね、と提案したのです。彼女はいま、大阪でレイアウトデザイナーとして働いてくれています。大企業ならできて当たり前かもしれないけど、我々のような中小企業だからこそ、ひとりひとりに合わせた柔軟な働き方を取り入れることが大事だと思うんです」
同社の働き方改革は、こうしたひとりひとりの事情に寄り添う柔軟な対応に端的に表れています。実際、こうした働きやすさが評価され、同社の若手人材の定着率は高まっています。続けて山岸氏は、別の男性社員のエピソードも紹介してくれました。
「かつて、ある男性社員が仕事へのやりがいを見失って退職したことがあります。育成の問題や、キャリアパスが見えないことへの不安が原因でした。でも1年後、彼は戻ってきたのです。他社を経験し、改めて山岸製作所の働きやすさを実感したそうなんです。当社のオフィス改革による働きやすさや、従業員を尊重する文化などが彼の心を動かしたんだと思います。だから私は、社員にとって魅力のある会社であり続けることが何より大切だと考えています」
経営者として働き方改革に取り組む山岸氏は、同じテーマと向き合う中で、どこからはじめればよいか、何に取り組めばよいかで悩んでいる経営者に次のようにメッセージを発します。
「私たちも大きな課題から始まりました。工場を閉鎖し、オフィス改革に取り組み、そこから反響型のビジネスに転換し、デジタル化が採用力の向上につながっていった。私たちはそのストーリーをお伝えしています。オフィスを見てもらい、その中で何か切っ掛けが見つかれば、そこから我々が力になっていきたいと思っています」
また、オフィス改革は経営課題であると位置づける山岸氏は、働き方改革というテーマの枠を広げて力になっていきたいとも言います。
「働き方を変える、採用力を上げる、そのためのオフィス改革。ですが経営者目線で見れば、そこに人事制度や評価、社員の働きがい、ハラスメントへの対策など、多くの課題が紐づいてきます。私自身も、それが解決したわけではなく、今まさに試行錯誤の中にいます。例えばフレックス制度の導入では、実は『隠れ残業』が可視化されるため残業代が増えてしまうことがある。また当社を含め多くの中小企業では、裁量労働制に見合う働き方ができている役職者はほとんどいません。そこで思い切って、役職者にも残業代をつける制度に変更しました。こういった決断にともなう支出と、採用力の向上と、どちらを選ぶべきなのか。答えとはならなくても、ひとつのケースとして提示し、共に考えていくことはできると思います」
仕事もプライベートも、充実した毎日を
山岸製作所の働き方改革のもうひとつの特徴は、「社員の自主性」を重んじている点にあります。社員ひとりひとりが自分で考え行動することで、自分のベストなパフォーマンスを発揮できると考えています。いつ、どこで働くかは社員自身が決め、より自分らしい働き方ができるように、制度改革やデジタル活用に取り組み、働く環境を常にアップデートさせています。
この自主性を尊重する文化は、同社の企業理念にも反映されています。山岸氏はこう語ります。
「当社の企業理念の一つに『上質メッセンジャー』というフレーズがあります。これは、社員ひとりひとりがデジタルツールを活用して業務の効率化を図り、生まれた時間を自分磨きに充てることで、仕事でも暮らしでもキラキラと輝く。そして、その上質な体験価値をお客様に届ける存在でありたいという想いを表しています。まず自分の人生を豊かにし、その体験を通じてお客様に価値を提供していく。それが私たちのミッションなのです」(山岸氏)
まずは北陸から、地域と共に歩む、地域に根差した働き方改革
山岸製作所の働き方改革は、地域活性化も視野に入れています。山岸氏は、自社の働き方改革のノウハウを地域の中小企業に広げていくことで、社員の働きがいを高め、企業の生産性向上や地元採用の増加、そして地域活性化につなげていきたいと考えています。
「地元の若者が地元企業に就職できる環境を作ることは、我々経営者の責任だと思っています。彼らが『東京に行かなくても、地元に魅力的な企業や仕事がある』と感じられるような企業を増やしていくことが大切です。残念ながら、まだ金沢ではフリーアドレスやリモートワークは一般的ではありませんが、その分伸び代があると考えています。当社のショールームには過去 7 年間で 2,500 名ほどの見学者が来社していますが、実際にフリーアドレスを体験した方々には、その価値は確実に伝わっていると感じています。Surface や Teams をはじめ、今回ご一緒させていただいたマイクロソフトさんの製品と共に今後も価値を発見していきながら、まずは地元から、自分たちの働き方改革を通して、そのノウハウを北陸の中小企業に広げていきたいですね」と山岸氏は地元への強い思いを口にしました。
山岸製作所の取り組みは、地方創生のモデルケースとして注目されています。同社の挑戦は、働く個人の幸せ、企業の成長、地域活性化の同時実現に向けた一つの解決策を提示しています。
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