2026年9月1日 11:06 AM

第5回:夜勤室の引き出しに、白紙のノートを置く――運用・監視の座席表と、“育つ”エージェント

Cloud Endpoints と呼んでいる、Windows 365 や Azure Virtual Desktop のソリューション エンジニアを務める曳野(ヒキノ)と申します。「SE曳野の仮想デスクトップとAI」と題して、私たちの仮想デスクトップサービスとAIやエージェントの関係性を中心にブログをお届けしています。第5回目のテーマは「夜勤室の引き出しに、白紙のノートを置く」です。

第1回では、エージェントを「どこで動かすか」という問いから、管理された実行環境である Windows 365 for Agents をご紹介しました。第2回では、“社員証”にあたる Microsoft Entra エージェント ID と、“上司”にあたるスポンサーの必要性を。第3回では、人とエージェントの仕事の持ち方を決める “動く座席表” の描き方を。そして第4回では、その座席表をコンタクトセンターという現場に持ち込みました。

第4回の現場は、人が話している現場でした。今回は、人が寝ている時間も止まらない現場へ持っていきます。IT運用、監視、サービスデスク。24時間365日、誰かが画面を見ていなければならないとされてきた場所です。

執筆者:日本マイクロソフト株式会社 クラウド&AIソリューション事業本部 ソリューション エンジニア 曳野 洋幸 | 2026年9月1日


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はじめに:なぜ、次の現場が「運用・監視」なのか

コンタクトセンターと運用・監視は、一見よく似ています。どちらも交代制で、どちらも「席」があり、どちらも件数で語られます。しかし、決定的に違う点が2つあります。

1つ目は、波の形です。コンタクトセンターの一日はなだらかな山でした。朝に増え、昼に落ち、夕方にまた上がる。ところが運用・監視の一日は、山ではなく階段です。何も起きない時間が大半を占め、起きるときは、関連する事象が一斉に鳴ります。1件の障害が、20件のアラートを生むこともあります。

2つ目は、同じことが何度も起こるという点です。コンタクトセンターの入電は、お客様が違えば話も違います。しかし運用の現場では、先月と同じアラートが、今月もまた鳴ります。 同じ機器の、同じ症状に、同じ手順で対処する。この繰り返しが、運用という仕事の大きな部分を占めています。

そしてこの2つ目こそが、今回の本題につながります。同じ仕事を何度も繰り返す現場では、エージェントの判断そのものを、少しずつ定型化していけるからです。


夜勤室の、引き出しの中のノート

比喩から入らせてください。運用の現場を訪ねると、夜勤の席の引き出しに、たいてい一冊のノートがあります。正式な手順書とは別の、誰が書き始めたのか分からない、書き足され続けてきたノートです。

「このアラートが鳴ったら、まず◯◯を見る。だいたい△△が原因」

「このエラーは3分待つと自然に消える。慌てて再起動しないこと」

「××の画面は反応が遅い。二度押ししないこと」

このノートは、最初は白紙でした。 誰かが夜中に困り、考え、対処し、翌朝「これは次の人も引っかかるな」と思って1行書いた。それが積み重なって、今の厚さになっています。

新人が配属された最初の月は、このノートを持っていても、一つひとつ考えながら手を動かします。しかし3か月も経つと、典型的なアラートには考えるより先に手が動くようになる。半年経つと、自分でノートに書き足す側になります。

熟達とは、知識が増えることであると同時に、いちいち考えなくて済む範囲が増えることでもあります。

今回お話ししたいのは、エージェントにも同じことが起きる、という話です。そして、そのノートをどこに置き、誰が書き足し、誰が承認するのか、という話です。まずは第3回・第4回と同じ手順で、席から決めていきましょう。


1本のアラートを、作業に分ける

第4回では1本の電話を分解しました。今回は1本のアラートを分解します。

検知 → 重複・関連の集約 → 一次切り分け(トリアージ)→ 関連情報の収集 → 定型手順の実行 → 影響範囲の確認 → エスカレーション判断 → 関係先への連絡 → 復旧確認 → 記録・再発防止の検討

「監視業務」とひとまとめにすると、24時間人が張り付く仕事に見えます。しかし分けてみると、性質のまったく違う作業が並んでいます。第3回の3つの問い(①正解を客観的に確認できるか、②間違えても戻せるか、③人であることに価値があるか)で席を割り当てると、こうなります。

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ここで注目していただきたいのは、上から3行です。

検知・集約・一次切り分け・情報収集。この4つは、読むだけで、何も壊しません。 件数が最も多く、正解を後から確認でき、間違えてもやり直せる。第3回の基準に照らせば、これ以上ないほど典型的なエージェント席の仕事です。

そして同時に、人が最も消耗している仕事でもあります。深夜に起こされて、結局「対応不要」だったという経験は、運用に携わった方なら覚えがあるはずです。


この現場のエフェメラルは、意味が少し違う

第3回で、エージェントの席は固定しない――必要なときだけ現れ、終われば消えるとお話ししました。第4回では、それを「朝のピークは20席、深夜は0席」という繁閑差の話として説明しました。運用・監視では、この意味が少し変わります。

この現場で長年コストになってきたのは、忙しさではなく、待機です。何も起きない8時間でも、当直者は席に座っていなければなりません。「何も起きないこと」を確認するために、人がそこにいる。これが24時間運用の構造的な負担でした。

エージェントの席なら、その待機が要りません。アラートが鳴った瞬間に席が現れ、片付いたら消える。何も起きない深夜の席数は、ゼロで構いません。

ただし、ここに1つだけ例外があります。一次切り分けの最初の数十秒です。障害の初動では、環境が立ち上がるのを待つ時間が惜しい場面があります。

第4回でご紹介したとおり、Windows 365 for Agents には、実行時間に応じた従量課金のオンデマンド型に加えて、低遅延の応答が必要な用途向けに、すぐ使える状態を保つ「常時利用可能」オプションが用意されています(米国地域で、オンデマンドは1時間あたり0.40 USD・1時間単位に切り上げ、常時利用可能はCloud PCあたり月額5 USD。いずれも執筆時点の米国地域の価格で、地域によって異なります)。

運用の現場では、この2つを組み合わせるのが現実的です。

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「常に0席」ではなく、「最前列だけ温めて、後ろは呼んだときに出す」。運用・監視におけるエフェメラルは、この形になります。


エージェントの席をつくる ― Windows 365 for Agents

席が決まったら、実際に用意します。Windows 365 for Agents は、エージェント用途のために用意された新しい種類のCloud PCで、Microsoft Entra参加・Microsoft Intune管理という企業の管理境界の中で動きます。

管理者が扱うのは個々のデバイスではなく、プールです。エージェントは「あのPCを使わせてほしい」ではなく、「実行できる環境を1つください」と要求します。そして1回のタスクは、次の5つのフェーズをたどります。

Prepare(用意する)→ Acquire(借りる)→ Connect(つなぐ)→ Act(働く)→ Release(返す)

運用の現場で押さえておきたい性質も、第4回と同じです。最大実行時間の上限はなく(数秒のタスクも、数日にまたがる作業も扱えます)、30分間まったく動きがないセッションは自動的に回収されセッション内の状態は持ち越されません。作業の途中経過は、外部に保存する前提で設計します。

そして、この現場にはAPIがない

第1回で、こうお伝えしました。理想は「エージェント ⇄ API ⇄ 業務システム」。しかし現実には、APIのない基幹システムや独自アプリが残っている、と。

運用の現場は、その壁が最も分厚い場所です。

  • ネットワーク機器、ストレージ、UPS、空調、入退室管理のベンダー製管理コンソール
  • 構成管理台帳や作業申請といった、長く使われてきた社内システム
  • 参照はAPIで取れるが、設定変更は管理画面からしか通らない機器
  • 外部ベンダーの状態を確認するための、SaaSの管理ポータル

ただし、順序を間違えないでください。APIがあるなら、APIを使うのが先です。 APIで届く操作をわざわざ画面操作に置き換える理由はありません。速く、安く、壊れにくいのはAPIのほうです。

Windows 365 for Agents が要るのは、APIでは届かない場所にだけです。画面を見て、クリックして、入力して、結果を読む。人間がやっていたことを、そのまま企業の管理境界の中で実行する。「APIの整備を待つ」か「そこだけ人が残る」かの二択だった場所に、三つ目の選択肢を置く――それが、この現場でのWindows 365 for Agents の役割です。

なお、Microsoft Copilot Studio の computer use から、このCloud PCプールを実行先として指定できます(プレビュー)。

人の席についても触れておきます。当直者やオンコール担当者は、自宅からでも拠点からでも、同じ管理された環境に入れる必要があります。データを持たない専用デバイスの Windows 365 Link、時間で分け合える Windows 365 Flex は、シフトとオンコールが混在するこの現場でも、そのまま人の席として使えます。


深夜1時、アラートが鳴る

では、実際に1本流してみましょう。深夜1時、あるバッチ処理の遅延を示すアラートが上がったとします。

① 検知と集約(エージェント席)
関連するアラートが計12件、数分のあいだに上がりました。エージェントはこれを1件の事象としてまとめます。人が最初に見るのは、12件の断片ではなく、1件のまとまりです。

② 一次切り分け(エージェント席)
過去の記録、直近の変更履歴、依存関係を突き合わせ、「夕方に適用された設定変更が起点である可能性が高い」という見立てを立てます。

③ 情報の収集(エージェント席・ここで画面操作)
必要な情報の一部は、APIを持たないベンダー製の管理コンソールにしかありません。エージェントはCloud PCを1台借り、その画面を操作して該当の状態を確認します。読むだけです。何も変更しません。

④ 定型手順の実行(エージェント席)
ノートに書かれた手順どおり、影響のない範囲で再実行を1回だけ試みます。上限は1回。これは後ほど重要になります。

⑤ 影響範囲の確認(共同席)
復旧しませんでした。エージェントは影響範囲を整理し、「翌朝の業務開始までに間に合わない可能性がある」という判断材料をそろえます。

⑥ 境界に触れたら、止まる(統制)
ここから先は構成変更を伴います。あらかじめ決めたしきい値に触れたため、エージェントは自分で突破せず、人に判断を求めます。 第1回でお話しした、ガバナンスループ=ブレーキとハンドルです。

⑦ エスカレーション(人の席)
オンコール担当者が起こされます。ただし、起こされ方が違います。手元には、まとめられた1件の事象と、見立てと、確認済みの状態と、試した手順の結果が、すでにそろっています。「何が起きているか調べる」ところから始めなくてよいのです。

⑧ 復旧と記録(人の席 → エージェント席)
人が判断して復旧させ、記録の作成と関連システムへの反映はエージェントが実行し、人が確認して承認します。

⑨ 席を返す(Release)
Cloud PCはリセットされ、実行能力がプールに戻ります。第4回でお伝えしたとおり、消えるのはセッション。残るのは、記録と監査ログと、責任の所在です。

なお、⑥の場面では、人が同じセッションをリアルタイムに観測し、必要に応じて操作を引き取れます。エージェントの接続を切らずに、人がその画面に入れる設計です。第1回でご説明したヒューマン・オン・ザ・ループ――「見ながら、代われる」――が、深夜の現場では特に効きます。


ここからが本題:二度目のアラートを、どう扱うか

さて、ここまでは第4回の応用でした。ここからが第5回の本題です。

翌月、まったく同じアラートが鳴りました。

このとき、エージェントは①から⑨をもう一度、最初から同じようにたどるでしょうか。もしそうなら、それは自動化ではありますが、学習ではありません。 三度目も、四度目も、同じだけ考え、同じだけ時間とコストをかけることになります。

冒頭のノートを思い出してください。人間の運用者は、二度目には同じだけ考えません。「ああ、あれか」で手が動きます。

エージェントにも、同じことをさせたい。そのためには、エージェント席の中身をもう一段開けて見る必要があります。


エージェント席の中を、もう一段開けてみる

第3回で、座席を「エージェント席/共同席/人の席」の3つに分けました。あれは「その仕事を誰が持つか」という軸でした。

ここで開けるのは、別の軸です。エージェント席に来た仕事を、どうやって判断するか。 判断のしかたは、3つあります。

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呼ぶ順番は、上からです。 まず手順の席を見る。そこに書いてあれば、考えずに実行して終わり。書いていなければ考える席へ。考える席でも決められない、あるいは決めてはいけない境界に触れたら、人の席へ渡す。

番号が小さいほど、先に呼ばれ、速く、安い。番号が大きいほど、対応できる幅が広く、遅く、高い。これは優劣ではなく、呼び出しの順序です。そして、ここが一番大事なところです。

導入した直後、手順の席は空っぽです。

ノートが白紙なのと同じです。書いていないのだから、参照しようがありません。だから最初は、ほとんどすべての判断が考える席に流れます。毎回LLMが考える。毎回、時間とコストがかかる。

その状態から、どう厚くしていくか。 それが「育つ」ということの中身です。


ノートは、最初は白紙である ― 3つの段階

同じ判断を何度も繰り返したら、それを手順として書き出し、次からは考えずに実行する。これを続けていくと、3つの席の比率が、時間とともに移り変わっていきます。

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Stage 1 は、ほぼ白紙のノートです。何を見ればいいのかも分からないので、毎回一から考えます。この時期にコストと時間がかかるのは、失敗ではなく仕様です。

Stage 2 で、ノートが厚くなり始めます。よく鳴るアラートから順に手順が書き出され、半分が「考えずに済む」ようになります。同時に、人が呼ばれる回数も減っていきます。人が呼ばれていた理由の多くは、「エージェントが決められなかったから」だったからです。

Stage 3 になると、ほとんどの判断がノートで決まります。考える席が呼ばれるのは、前例のない事象が来たときだけです。これは、熟練の運用チームの姿とよく似ています。

なお、この表は考え方をお伝えするための整理であり、公式の成熟度モデルでも、保証された数値でもありません。進み方は現場によって大きく違います。同じ事象が繰り返し起きる現場ほど速く進み、毎回条件が違う現場ほどゆっくり進みます。 運用・監視が最初の現場として向いているのは、まさに前者だからです。


育つことの値打ちは、安さではない

「LLMを呼ぶ回数が減るなら、安くなりますね」――そのとおりです。ですが、順番を間違えないでください。一番大きな値打ちは、安さではありません。 順に挙げます。

1つ目:説明できるようになる。
書き出された手順は、同じ入力に対して同じ答えを返します。これは監査の場面で決定的な差になります。「なぜこの操作をしたのか」という問いに対し、「この条件に合致したので、この手順を実行しました」と答えられる。条件と手順が文書として存在し、いつ誰が承認したかも残っている。無人の時間帯に自動で動くものほど、この性質が要ります。

2つ目:速くなる。
考える席は秒から分を要しますが、手順の席はミリ秒です。深夜の初動で、この差は体感できる大きさになります。

3つ目:安くなる。
考える席を呼ぶ回数そのものが減ります。ここで起きているのは、少し直感に反することです。ふつう、システムを賢くしようとすれば、より大きなモデルとより多くの計算が要り、コストは上がります。ところがこの構造では、成熟するほど、1件あたりの判断は軽く、速く、安くなります。

第3回で、「考えるコストと、動かすコストは分けて捉える」とお伝えしました。育つ仕組みが効くのは、このうち考えるコストのほうです。動かすコスト(実行環境)は仕事量に比例しますが、考えるコストは、運用を重ねるほど逓減していきます。 この差は導入1年目にはほとんど見えませんが、3年目に効いてきます。


勝手には育たせない ― 影のように並走させてから、昇格させる

ここまで読んで、不安になった方がいるはずです。「エージェントが自分でルールを作って、自分でそれを使い始めるのか」と。

いいえ。そこは、人が止めます。

書き出された手順の候補は、いきなり本番の判断に使いません。まず、判断はさせるが、実行はさせない状態で並走させます。実際の運用ではこれまでどおり考える席が判断し、その隣で、新しい手順の候補が「自分ならこう判断した」を記録し続ける。影のように、ついて回るだけです。

そして一定期間、両者の答えが十分に一致し続けたことを確認してから、人が承認して手順の席へ入れます。この設計には、2つの原則があります。

原則 意味
入口は人だけ 手順の席に何かが入る経路は、人の承認ただ一つ。機械が自分で追加することはない
出口も人が引ける 結果が悪化した手順は、外す・止める判断を人ができる。入れっぱなしにしない

そして、承認するのは書いた本人ではなく、その業務に責任を持つ人です。第2回でお話ししたスポンサーが、ここで再び登場します。エージェントの目的とライフサイクルに責任を持つ人が、「この判断を、今後は考えずに実行してよい」と決める。

第2回でお伝えした「自律性は与えるものではなく、実績によって獲得させるもの」という原則を、覚えていらっしゃるでしょうか。あれは、エージェント全体に対する話でした。同じことが、一つひとつの判断に対しても成り立ちます。並走させ、実績を見て、人が承認して、初めて昇格する。


ノートに書けないことは、人が書く

もう1つ、大事なことをお伝えしておきます。

繰り返しから書き出される手順は、「何をするか」しか写し取りません。

人が書いた正式な手順書には、こう書いてあったとします。

  1. 該当プロセスを再起動する
  2. ただし冗長構成が健全であることを確認してから行う
  3. 再実施は1回まで
  4. 2回失敗したら、下位層の問題を疑い、人へ渡す
  5. 全系が同時に落ちているときは、実施せず即エスカレーション

このうち、繰り返しの実績から自動的に書き出されるのは、1行目だけです。2行目以降は出てきません。

理由は、考えてみれば当たり前です。実績には、やらなかったことが残らないからです。「2回目はやめておいた」という判断は、記録の上では「1回で直った」と区別がつきません。「全系が落ちていたので実施しなかった」という判断は、そもそも実行の記録として残りません。

つまり、「いつやめるか」「なぜそうするのか」は、誰かが意図して書いた文書の中にしか存在しません。

だから、ノートがどれだけ厚くなっても、こういうものは人が書き、人が渡し続ける必要があります。

  • 再試行の上限
  • 実施してはいけない前提条件
  • 何を「別の障害」として扱うか
  • どのサービスが業務に直結し、どれが待てるか

参考になる実装があります。Azure Monitor の Azure Copilot Observability Agent には、カスタム指示という仕組みがあります。「どのアラートを関連づけるか」「どのサービスを運用上は別物として扱うか」「どのワークロードが業務上重要か」といった、テレメトリからは読み取れないことを、自然言語で一度書いておくと、以後の自動処理に一貫して適用されるというものです。しかもその指示はAzureリソースの状態として保存され、監査でき、新しく入ったオンコール担当者も同じ前提を引き継げます(プレビュー)。

ここに、人の役割の変化が現れています。手順を書く人から、やめどきを決める人へ。 作業そのものではなく、作業の境界を書く仕事が、人の側に残ります。


残るものが、もう一つ増える

第4回の最後に、こうお伝えしました。「消えるのはセッション、残るのは記録と責任」。第5回で、残るものがもう一つ増えます。

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これが、運用・監視という現場に座席表を持ち込む、いちばん大きな意味です。

席は消えます。しかし、ノートは残ります。 そして、そのノートは、担当者の異動でも、委託先の交代でも、消えません。夜勤室の引き出しの中で属人化していたものが、承認と監査を伴った組織の資産になる。

第1回でご説明した学習ループ=使うほど賢くなるとは、運用の現場ではこういう形をしています。


まとめ:夜間の一次切り分けから、始める

最後に、第1回のエアコンの輪を、もう一度回しておきます。運用・監視の場合、測るべき数字は現場にすでにあります。

  1. 測る:アラート件数と集約後の件数、一次切り分けの的中率、人が呼ばれた回数、深夜のエスカレーション件数、復旧までの時間、そして考える席を呼んだ回数
  2. 判断する:エージェントが抱え込みすぎていないか。逆に、決められる判断まで人へ渡していないか。手順の席に入れた判断が、いま正しく効いているか。
  3. 動かす:しきい値、席の割り当て、プールの大きさ、手順の追加と削除、人の配置を変える。
  4. また測る:変更後の結果を確かめる。

特に見ておきたいのが、一次切り分けの的中率と、見逃しをセットで見ることです。「人を呼ぶ回数が減った」だけを追うと、呼ぶべきときに呼ばないエージェントが評価されてしまいます。第3回・第4回でお伝えしたとおり、評価の仕組みは、実行能力と同じだけ重要です。

そのうえで。もしあなたがいま、運用の現場でエージェント導入の最初の一歩を探しているなら、夜間の一次切り分けから始めることをおすすめします。

  • 件数が最も多い。つまり、ノートが最も速く厚くなる場所です。
  • 読むだけで、何も壊さない。間違えても戻せます。
  • 正解を後から確認できる。的中したかどうかが、翌朝には分かります。
  • そして何より、人がいま最も消耗していて、かつ、人でなくてもよい仕事だからです。

第3回で「必要なときに、必要な席だけを」とお伝えしました。第5回で、そこに一言足させてください。

必要なときに、必要な席だけを。そして、席の隣に、白紙のノートを置いておく。

最初は白紙で構いません。というより、最初は必ず白紙です。 厚くするのは、これからの運用そのものです。

次回は、この座席表を1つの現場から、組織全体へ広げます。1部門でうまくいった座席表を全社に展開すると、席は何百に増え、ノートは部門ごとにばらばらに厚くなっていきます。誰が席の棚卸しをするのか、誰がノートを承認するのか、責任者のいない席が生まれないようにするにはどうするか。第2回でお話しした“社員証とスポンサー”の話が、全社規模で戻ってきます。


参考リンク

エージェントの席(Microsoft Learn)

人の席(Microsoft Learn)

運用・監視とアラート(Microsoft Learn)

エージェントの自律実行と統制(Microsoft Learn)


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