Mesh for Microsoft Teams が目指す、「メタバース」空間でのより楽しく、よりパーソナルなコラボレーション
※本ブログは、“Mesh for Microsoft Teams aims to make collaboration in the ‘metaverse’ personal and fun | Innovation Stories”の抄訳です。
John Roach (Digital Transformation Services エグゼクティブ アーキテクト)
世界中の労働者がオフィスを離れ、オンラインで共同作業することを余儀なくされたパンデミックから 1 年半以上が経過しました。生産性に関するマイクロソフトのエキスパートは、その中で 2 つの傾向を見い出しました。1 つは、大部分のビジネス リーダーが想定したよりもはるかにリモート ワーカーの生産性が高いこと、もう 1 つは、リモート ワーカーたちは互いに寂しく感じていることです。廊下ですれ違ったり、給湯室で情報交換したり、思いがけない相手に遭遇したりすることがなくなりました。また、会議室のテーブルを挟んで、言葉で表せないメッセージをボディ ランゲージで伝えていたころを懐かしく思っています。
どこからでも場所を選ばずに働くことができ、同僚とオンラインでつながるようになったのはすばらしいことですが、リモート会議では相手のパーソナルな部分が見えず、人間関係やキャリアを築く機会が減っています。このことは、マイクロソフトのリサーチ部門による継続的な調査でも実証されています。たとえば、会議参加者全員のビデオ カメラがオンになっていると、参加者たちはより積極性が高まり、コミュニケーションが活発になると感じています。ただ、このビデオ オプションはオンとオフの 2 つの状態しか選べません。あまりに多くのメンバーが、静止画像やイニシャル入りアイコンで長時間表示されるのは、とても自然とは言えません。
マイクロソフトは本日、この問題に対する解決策を発表しました。それが 2022 年の提供開始を予定している Mesh for Microsoft Teams (英語) です。Mesh for Microsoft Teams の機能は、物理的に異なる場所にいる人々が、共通のホログラフィック エクスペリエンスを通して共同作業に参加できる Microsoft Mesh の Mixed Reality(複合現実)機能と、仮想会議への参加やチャット送信、共有ドキュメント上でのコラボレーションなどを可能にする Teams の生産性ツールが融合されています。
Teams、SharePoint、OneDrive など Microsoft 365 のプロダクティビティ ツールを統括するマイクロソフト コーポレート バイス プレジデントの Jeff Teper によると、Mesh は、リモート会議やハイブリッド会議の没入感を高め、コラボレーションを促進させる Together モード (英語) や発表者モードといった、Teams の既存機能を基盤にしています。
これらのツールはいずれも「同じ仮想空間を共有する 1 つのチーム、1 つのグループであることを全員に認識させ、堅苦しさをなくし、活発な参加を促す」手段であり、「チームの効率化と、個人の積極性の向上という 2 つの目標の達成にこれらのツールが役立つことが確認できています」と Teper は述べます。
一般的なスマートフォン、ノート PC、Mixed Reality ヘッドセットからだれもがアクセスできる Mesh for Microsoft Teams は、オンライン会議がよりパーソナルで、魅力的で、楽しくなるよう設計されています。Mesh for Microsoft Teams は、「メタバース」と呼ばれる、人、場所、モノのデジタル ツインが配置された永続的なデジタル世界への入り口でもあります。メタバースは、新たなバージョンのインターネットあるいは新たなビジョンに基づくインターネットと考えることができます。そこでは 1 人ひとりがどのデバイスからでも仮想的存在となって集まり、コミュニケーション、コラボレーション、共有を行うことができます。
ほとんどの Mesh for Microsoft Teams ユーザーが最初に行うステップは、通常の Teams 会議に参加することです。その際、静止画像やビデオを使用するのではなく、自身のアバターをカスタマイズし、そのアバターで参加します。組織は、イマーシブな空間、つまりメタバースを Teams 内に構築することもできます。Mesh for Microsoft Teams ユーザーは、このような空間に自身のアバターを参加させることで、ユーザーどうしで交流ができ、プロジェクトを共同で進めることができます。思いがけない出会いからイノベーションが生まれることも起こりえます。
マイクロソフトのテクニカル フェローである Alex Kipman はこう述べています。「Mesh for Microsoft Teams にようこそ。生産性を高め、ナレッジ ワーカーに貢献するべく取り組んできたマイクロソフトがお客様の強い要望を受けて生み出したのが Mesh for Microsoft Teams であり、そこに私たちが 12 年間取り組んできた Mixed Reality のビジョンを反映させることで、すべてを 1 つに融合してご提供します」
仮想オフィス Nth Floor
Kipman と同氏が率いるチームは、60万人を超える従業員と全世界の顧客を抱えるグローバル プロフェッショナル サービス企業 の Accenture と協力して、Mesh を活用したイマーシブ空間の構築に数年をかけて取り組んでいます。その一例が、パンデミック前に Accenture が構築した仮想キャンパスです。同社の従業員は、このキャンパスで開催される交流会、プレゼンテーション、パーティーなどのイベントに、あらゆる場所から集まることができます。
Accenture でシニア マネージング ディレクター兼グローバル デジタル エクスペリエンス リードを務める Jason Warnke 氏はこう語ります。「この仮想現実の中でしかできない架空のような不思議なキャンパスは、”Nth Floor” と呼ばれるようになりました」また、こう続けます。「最も気に入っている点は、世界中の同僚とばったり出くわし、深く有意義な会話ができることです。イベントが終わるたびに、新しいアイデアが 5 つは浮かんできます」
パンデミック後すぐに、究極のユース ケースが発生しました。新入社員研修です。Accenture では毎年 10万人以上の新入社員を迎えています。同社の一般的な新人研修プロセスでは、新入社員グループと上級管理職をオフィスに集め、一連のプログラムを体験してもらう中で、Accenture の文化を理解し、その文化を個人の規範に組み込み、仕事での人間関係の構築を始め、初めてのプロジェクトを成功のスタート地点にするための準備を整えていきます。
現在、新入社員は Teams に集まり、デジタル アバターの作成方法や One Accenture Park へのアクセス方法の指示を受けます。One Accenture Park とは、新人研修期間中にイマーシブなエクスペリエンスを提供する、共有の仮想空間です。未来の遊園地のようなこの空間では、中央に会議室があり、バーチャル役員室もあります。新入社員グループは、モノレールで次から次に移動しながらさまざまな展示を見て回ることができます。
Warnke 氏は次のように述べています。「全員がフルリモートで働くかもしれないこのグループで一緒に仕事をすること、その環境で何かを成し遂げようとすることがどういうことなのか、最初の段階から理解していくことになります」
現在までに数万人の新入社員が One Accenture Park で研修を受けています。他にも複数のバーチャル オフィスがあり、Accenture が最近ニューヨークに開設した One Manhattan West オフィスのデジタル ツインもその 1 つです。このようなバーチャル オフィスではこれまで数十ものイベントが開催されており、数千人の Accenture 従業員がラップトップから参加しています。
Warnke 氏によれば、イマーシブ空間の操作方法は数分もあれば理解でき、すぐに使いこなせるようになります。また、こう続けます。「突然目の前にだれかのアバターが出現しますが、そこで繰り広げられるのは、『あの大型案件の調子はどうですか?』、『家族は元気?』のような踏み込んだ会話です。ここが VR 空間であることを忘れてしまいます。私にとってこの感覚は、この空間でしか味わえない、最も不思議な感覚です」
可能な交流のレベル
Mesh for Microsoft Teams の提供開始時には、会議や交流イベントなどさまざまな用途に対応する一連のイマーシブ空間が提供される予定です。マイクロソフトの Teper によると、Mesh を活用した Nth Floor のようなカスタムのイマーシブ空間の構築と、Teams への展開にも今後対応していきます。イマーシブ空間は、対面による会議、チャット、メール、ビデオ通話に加えて、今後のコミュニケーションおよびコラボレーションの手段の 1 つになりつつあるというのが同氏の見通しです。
また、Teper は次のように述べています。「私たちは状況に応じて人との関わり方を使い分けており、そのすべてが重要です。深刻な場面では真剣な顔で向き合い、お祝いの場面では喜んで祝います。楽しいときもあれば、気乗りしないときもあります。効果的なチームや対人関係を作るには、個人レベルでつながり、信頼、共感を得て、喜びを共有し、共通の目標を掲げる必要があると認識されています」
また Teper は、Microsoft Teams のチームのチャネルにイマーシブ空間を配置することは、結束力の強化と目標の共有に効果があると言っています。たとえばマイクロソフトのプロダクトデザインチームの場合、毎日のスタンドアップ ミーティング用のイマーシブ空間を構築して、バーチャルの壁の一面には初心を忘れないために顧客の写真を貼り、別の壁にはホワイトボードを掛けて色分けしたタスクを貼り、テーブルには製品のプロトタイプを表示することが可能です。
Teper はこう述べています。「この空間に集まることで、同じ目標に向かって着実に歩みを進めている感覚を共有できます。この感覚は、決められた場所に物を配置できない、格子状に区切られたオンライン会議では得られません。イマーシブ空間は、チームの目標を何度も思い起こさせてくれます。このテクノロジが新たに飛躍するとすれば、それはこのような使い方から生まれると思います」
あらゆるデバイスで質の高い会議を
前述のマイクロソフトのリサーチ部門 (英語) は、ビデオをオンにすることで、オンライン会議の参加者は、積極性がより高まり、コミュニケーションがより活発になると感じていると発表しています。この調査結果から、人々がカメラをオフにする理由も明らかになっています。その理由は、プライバシーを知られたくない、ビデオ疲れといった理由から、カメラに見られながらのマルチタスクが難しいといった理由、パジャマで仕事をしていて、午後遅い時間の会議でそのことを指摘されたくないなど、さまざまです。
マイクロソフトの Mesh for Microsoft Teams 担当のプリンシパル プロジェクト マネージャーである Katie Kelly は次のように話します。「私も電熱パッドを敷いたリビングの椅子から会議に参加したいと思うときがありますが、それは適切ではないかもしれません。そのようなときにアバターを有効化できれば良いですね。私は確かにそこにいて議論に参加していますし、その場にいる人々も、私がそこにいて議論に参加していることを実感できます」
2022 年前半の提供開始を予定している Mesh for Microsoft Teams のプレビュー版では、さまざまなオプションを使って Teams 会議を作成し、パーソナライズされた固有のアバターで参加できるようになります。その他の参加者も、自分を表すアバターを使うこともできますし、自分自身がビデオに映ったり、静止画像やイニシャル入りのアイコンを使ったりすることもできます。
Kelly は次のように語ります。「最初は、音声をトリガーとして使用し、喋りに合わせて顔のアニメーションが動くようにする予定です。アバターの表現力を高めるアニメーションは他にも用意され、両手も動くようにします。音声を取り込み、それを顔の表情として表現するというシンプルなものでも、一定の存在感は確実に得られるでしょう。ここまでが最初のリリースで提供されます。その後は、マイクロソフトの豊富な AI テクノロジを存分に活用し、カメラを使って口の位置を推測したり、頭や顔の動きを模倣したりといったことが実現できるようになると考えています」
スマートフォンから VR ヘッドセットに進化し、マイク 1 台搭載のノート PC から、マイク 6 台、カメラ 16 台搭載の HoloLens に進化したように、デバイス間でセンサー テクノロジは進化しており、今回のエクスペリエンスも進化していくことでしょう。Mixed Reality テクノロジによって、各ユーザーが 1 つのアバターをあらゆるデバイスで利用できるようになり、カメラに映りたくないときでも表情豊かに参加できるようになります。
アバターの活用はこれにとどまらないと、Kelly は続けます。Teams 会議に始まり、Accenture の Nth Floor に代表される Teams 内のイマーシブ空間など、Mesh を活用したさまざまな場所でアバターはユーザーの代わりになるでしょう。また、次のように説明します。「アバターの利用は二次元のコミュニケーションに限定されないという考えです。たとえば私がある人と知り合い、互いのアバターを認識したら、その人の他にメンバーが 20 人いるイマーシブ空間に入っても、その人を見つけて声をかけ、会話を始めることができます」
「メタバース」の入り口
Kipman は、この 12 年間の大部分を費やして、Microsoft HoloLens の開発を始めとするマイクロソフトの一連の Mixed Reality テクノロジに取り組み続けてきました。同氏の Mixed Reality に対するビジョンは変わりません。それは、ユーザー 1 人、デバイス 1 台という単独型の体験から、現実世界にコンテンツを配置することでコラボレーションに最適な環境に変えることです。その出発点となったのが、ユーザーによるコンテンツの投影を可能にする HoloLens でした。
Kipman のチームが 3 月に発表した Mesh により、組織におけるメタバースの構築が可能になりました。メタバースとは、コラボレーションのための永続的な仮想世界であり、人、場所、モノのデジタル ツインを通して物理世界と仮想世界がつながる場所です。
このテクノロジを活用した当初のシナリオは、自転車、高級家具、最新型ジェット エンジン、スポーツ スタジアムなど、あらゆる 3D 物理モデルを仕事としている人々がターゲットでした。Mesh を活用したこれらのイマーシブ空間では、複数のチームで建設中の工場の設計図を確認したり、学生が電気自動車の製造方法や人体解剖の技術を学んだりするなど、デザイナー、エンジニア、学生、教師が、物理的な場所の制約を受けずに共同作業や反復作業を行うことができます。
Kipman は次のように述べています。「現在私たちは、現場の最前線で働く従業員向けに高度に専門化された一連のワークロードから、ナレッジ ワーカー向けのワークロードに移行する段階に入っています。ナレッジ ワーカーとはデスク ワークを主とする私や皆さんのような人々ですが、その仕事内容はまさにコラボレーションであり、今している仕事も共同作業であるはずです。私たちには、Microsoft Teams というすばらしく魅力的なコラボレーション ツールがあります。現代のコラボレーションの場はここにあったのです」
Kipman の頭に浮かんだのは、このマイクロソフトの核となるコラボレーション ツールがメタバースの入り口として機能する未来です。Teams の2 億 5,000 万のユーザーに、リモート ワークやハイブリッド ワークの新たなアプローチを提示できると考えたのです。Mesh for Microsoft Teams によって、ナレッジ ワーカーはアバターを作成、活用して自身を表現し、イマーシブ空間を体験できるようになります。Kipman は言います。「使えば使うほど、その魅力に気付くはずです」
関連情報
- 詳細情報: Mesh for Microsoft Teams (英語)
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トップ画像:Mesh for Microsoft Teams によって、カスタマイズしたアバターで会議に参加可能となります。ここでは、Teams のグリッドの中にアバターとカメラ映像の両方の参加者がいる様子を示しています。画像提供:マイクロソフト
John Roach は、マイクロソフトの研究成果とイノベーションに関する記事を執筆しています。Twitter アカウントをフォローしてください。
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