教育現場で AI 活用を進めるトップランナー教員座談会 〜教育の現場で、AI が変えることと変えないこと〜

AI は、教師の仕事を奪うのか。それとも、教師が子どもたちと向き合う時間を取り戻すのか。
小中高の教育現場で AI の導入・活用をリードする 3 名の教員をお招きし、座談会を開催しました。授業での活用、校務の効率化、AI リテラシー、そして AI 時代にふさわしい端末の条件まで。教育現場の最前線で試行錯誤を続ける 3 名に、AI によって変わることと、変わらず大切にすべきことを忌憚なく語っていただきました。
【座談会参加者】

変化する学びに対応するため、AIは「特別なもの」ではなくなった
――先生方の学校で、AI を取り入れた授業を始めた経緯についてお聞かせください。
依藤)当校の場合、授業以外の活動や研修などで授業時間が限られてしまうという課題がありました。一方で、子どもたちはすでにプライベートで AI を使い始めており、リテラシー教育を受けないまま無秩序に使っている状況もありました。であれば、学校として正式に AI を採用し、きちんと指導していこうと考えたのが出発点です。そこからどのようなカリキュラムが必要か検討を始めた形ですね。
三好)当校では以前から、これからの教育は一方通行ではなく、生徒の思考を教員が支える形に変えていく必要があると考えていました。ただ、その方針で一人ひとりに対応しようとすると、どうしても時間が足りなくなってしまう。そこで、教員の代わりに AI に添削や壁打ち相手の役割を担ってもらい、教員の負担を減らしながら、生徒の思考を深める方向で活用を始めました。
小池)私が ICT の研究に取り組んでいることもあり、生成 AI が出てきたときに、これは今後子どもたちの学びを支えるテクノロジーになっていくだろうと感じ、「授業化しない手はない」と考えたことがきっかけです。教科書の改訂は 10 年に一度のペースですから、それを待つのではなく、私たちがどう AI を活用できるのか検証しながら導入を進めています。
授業では、AI を「答えを出す道具」ではなく「思考を深める相手」として使う
――どのような形で AI を授業で活用していらっしゃるのかをお聞かせいただけますか?
三好)私の国語の授業では、小論文を書いたり、学習内容をまとめたスライドを作成したりする課題で AI を使っています。単に答えを出させるのではなく、自分の考えを深掘りするために使うイメージです。また、提出された課題をまず Microsoft 365 Copilot の Copilot エージェントで評価し、その後に私自身が確認するという使い方もしています。
依藤)私は、情報の授業でテキスト マイニングをする際に、形態素解析のような専門的な処理を AI に行わせるなど、体験を伴う授業を展開しています。私以外の授業でも、中学 2 年生が英検受験用の問題を作成する AI エージェントを Copilot でつくったり、公共の授業で、AI エージェントとディベートを行ってから対人ディベートcもあります。
小池)私は小学 3 年生の担任ですが、生成 AI の利用規約上、13 歳未満の子どもが直接使うことはできません。そのため、Copilot の画面を電子黒板に映し、私が使っている様子を子どもたちに見せる形で活用しています。また、Microsoft Teams で提出されたアンケートの返信状況を確認したり、意見を整理したりする場面でも Copilot を使っています。
AI で業務は楽になる。ただし、空いた時間には次の仕事が入ってくる
――AI の活用で業務負担は減っていますか?
三好)以前は Microsoft Excel で時間をかけてテスト結果をまとめていましたが、今は Microsoft Word でつくったテスト問題を Microsoft Forms に取り込み、生徒には Teams 上で回答してもらっています。すぐに集計できますし、正答率などの分析もその場で出せます。業務量は確実に減りましたし、どの問題でつまずいているかを把握しやすくなったことで、フィードバックの精度も高められています。
小池)業務時間が短縮できていることは確かです。ただ私の場合は、短縮できた分を研究や次の授業づくりに使ってしまうので、仕事そのものが大幅に減るというより、心理的な負担が軽くなる感覚が大きいですね。保護者向けの文書のように言葉遣いに気を配る必要がある文章を、AI と壁打ちしながら下書きできるだけでも、かなり気持ちは楽になります。
依藤)時間があったらやろうと思って溜めている仕事があるので、結局そこに時間を使ってしまうんですよね。ただ、面倒な下準備や定型的な作業を AI に任せられることで、本来考えるべきことに向かいやすくなる実感はあります。
自由に使いながらも批判的視点を持ち、AI を使うべきシーンを見極める
――子どもたちの AI の使い方に関して、工夫している点や気にかけている点はありますか?
三好)当校の場合は、情報の授業である程度のリテラシーは身につけています。ただ、子どもたちは、AI が出したものをそのまま採用してしまいがちです。だからこそ、必ず自分で確認すること、自分の趣旨と合うところは使い、違うところは省くことを意識させています。AI に聞く前に、まず自分が何を考え、何が欲しいのかを構築することが大切です。
依藤)当校では、授業以外での使い方を細かく指定するのではなく、基本的には自由に使わせています。ただし、三好先生と同じように、基本的なリテラシー教育やAI に依存しないような指導は定期的に行っています。失敗も含めて、使いながら学ぶことが重要だと考えています。
小池)小学校の場合、授業で AI を使うと聞くと保護者の期待は非常に高くなるため、きちんと説明責任を果たすことが大切です。またリテラシーの面で言うと、出来上がった AI エージェントを使わせるだけでは、仕組みが見えません。子どもたちと一緒に必要なプロンプトを考え、AI エージェントづくりを追体験することで、AI との距離感を学び、リテラシーを高められるようにしています。
――やはり、小学校と中学・高校は AI へのアプローチが異なるのですね。
小池)小学生だと「この使い方は大丈夫かな?」と思う瞬間が結構ありますね。高校生の場合、誤った使い方をしてしまってストップをかけるような事例もあるのでしょうか?
依藤)当校では、あまり聞いたことがありません。まず核となる部分を教えてそれを授業で体験するという形をとっているので、リスクのある場面では使わないということはあるかもしれません。とはいえ、誰でも最初は失敗をするものです。教員の目が届く範囲であれば、あえて挑戦させ、安全な環境の中で失敗を経験してもらうことも、リテラシーを育むうえで大切にしています。
三好)以前小池先生の学校に視察に伺ったことがあるのですが、子どもたちが楽しみながら AI を使っているな、という印象を持ちました。でも小学校だとまだ先生の言うことを守れないような子もいるのではないですか?
小池)そうですね。ただ、だからといって AI を使わせない理由はないと思っています。最近は「認知オフローディング」(AI などに頼りすぎて自分で思考しなくなること)を気にする風潮がありますが、逆に AI を使って自分の表現を豊かにしていくことを考える方がいいと思うんです。
例えば、三好先生に見ていただいたのは、「AI を活用して詩を書いてみよう」という国語の授業だったのですが、AI を使うか使わないかは子どもたちに選ばせました。学びの過程のなかで子どもたちが自主的に使うか使わないかを選べて、その過程や結果を考察できる環境を与えることが大切だと思っています。
校務では、コミュニケーションの改善手段や議事録作成などで活用
――続いて、校務での AI 活用についてお伺いします。冒頭で依藤先生から、教員が AI エージェントを自作して活用されているというお話もありましたが。
依藤)教員に対しては、「Copilot でこういうことができますよ」と簡単に伝えただけです。それだけで実用に耐える AI エージェントをつくれるのですから、AI の敷居はそれほど高くないと感じています。使い方としては、私も含めて、文書の草案づくりなどで活用している教員が多いですね。普段よくつくる文書は自分で書くけれど、あまりつくり慣れていない文書は AI に聞きながら、といった使い分けをしているようです。
小池)当校もそうですね。先ほど申し上げた保護者向けの文書のような対外的な文書などをつくる必要があるときに、言葉遣いを Copilot と壁打ちするといった使い方が多いようです。「文書作成エージェント」みたいなものもつくれると思うのですが、そこは人と人とのコミュニケーションなので、AI に任せきりにするわけにはいきません。やはり使い分けが大切だと思います。
三好)私も、広報などで使う文書を AI に下書きしてもらっていますね。当校ではブログを運営していて、取材を受けた際などにはそこにレポートを掲載してもらうのですが、Copilot に条件を打ち込んでさっとまとめてもらい、それを手直しして広報部に提出しています。広報部長からは「私の仕事を減らしてくれてありがとう」と言われていますよ。
――主にコミュニケーションを円滑にするツールとして使われているのですね。
小池)そうですね。それ以外の使い方だと職員会議をあえて Teams で開催して、レコーディング データや資料を共有したり、Teams の Copilot で議事録やタスクを生成したりしています。保護者会をリモートで行うことも多いのですが、参加できなかった保護者の方へも議事録をお渡しできるので、AI 活用の可能性をかなり感じている部分です。
三好)当校でも、会議の内容に齟齬があってはいけないので、リモートの際はもちろん、リアルの会議でもあえて Teams を立ち上げて議事録を作成しています。議事録作成は業務としても負担になりますし、記録する人によって捉え方が違ったり要点が抜けたりすることもあるので、AI にまとめてもらうのは業務削減と公平性というふたつの面で便利だと思います。
依藤)意見に偏りが出ないというのは AI の利点のひとつですよね。人間も AI 相手なら遠慮なく意見を言えますし。
小池)私は、若手教員の指導案に対して、少し言いにくいことも「AI がこういうフィードバックをしているけど?」とまず Copilot の意見をぶつけて、そのうえで議論することがあります。私から直接言われるより AI の意見なら先入観なく聞いてもらえるんですよね。AI には、第三者的存在としてコミュニケーションを円滑にしてくれる良さがあると思います。
AI 活用が進んで、変わることと変わらないこと
――AI を授業や校務に取り入れたことで、どのような変化が起きてくるでしょうか?
依藤)いま、子どもたちは AI には聞くけれど教員に聞かなくなる現象が起きていると感じています。AI の言うことは全部が正しいわけではないという点をもっと子どもたちに意識してもらうこと、教員の側もファクトチェックの役割をもっと意識する必要があると思います。
小池)教育マニュアルやパッケージがつくれなくなりますよね。AI に限らず ICT 関連の教材は、マニュアルがつくられて公開されるときにはもう情報が古くなってしまう。そういう意味では教員側がしっかりキャッチアップして、AI で何ができるのかを体感することが重要だと思うんです。これからの教員には、誰かに教わるのではなく、新しいものを上手に楽しく学ぶ姿勢が求められるのではないかと思います。
三好)いま AI 教育を受けている小学生が中学、高校に進学してくると、古いフェーズで止まっている教員は居場所がなくなってしまうかもしれませんね。
――先ほど小池先生がおっしゃったように、AI によって子どもたちの考える能力が低くなる、という懸念もあると聞きます。
小池)もちろんその懸念はありますが、ある程度使いこなさないと正しい議論はできないと思うんです。「AI は子どもたちの思考能力を奪う」「AI は仕事を奪う」といった一面だけから判断するのではなく、まず AI をどのように子どもたちのために活用できるのかを、私たち大人が考えなければなりません。
依藤)おっしゃる通りだと思います。当校も、「使いながら学ぼう」という方針を採用しています。もちろん失敗することもありますが、そこから使うべきポイント、使わない方がいいポイントを探っていく。それから重要なのは、考える主体として子どもたちがいなければならないということです。教員はその環境づくりをすることが必要だと思います。
三好)私が子どもたちによく伝えているのは、「AI だってプロンプトが雑だと雑な回答しか返ってこないよ。これは人と人とのコミュニケーションも同じだよ」ということです。まず自分が何を考えていて、何が欲しいのかを構築したうえで聞きなさいと。AI は資料を要約してくれるけれど、まず自分がその内容をどう捉えたのかを確かにすることが重要です。子どもたちにも、そのうえで AI にサポートしてもらわないと AI に使われていることになるよ、と言い聞かせています。
長く安定して使える端末を使って、AI 時代の教育を前進させる
――続いて、AI 活用に欠かせない PC 端末についてもお聞きしたいと思います。教育現場における AI 活用を考えると、どんな端末がふさわしいでしょうか?
依藤)当校は中高一貫校なので最大 6 年間使うことになります。その間に PC の性能はどんどん進化していきますから、導入時には十分だと感じていたスペックでも、数年後には授業に必要な要件を満たせなくなってしまう恐れがあります。そうならないように、ある程度ハイスペックな端末が必要だと感じています。またある程度自発的な活用を重視しているので、扱いやすい端末であることも大切です。学校が坂の上にあるので持ち運びやすいように薄さ、軽さはとても重要ですし、もちろん AI が使えることは必須です。そういった基準から、当校では今年度からハイスペック Copilot+ PC である Surface Pro 12 インチを採用しています。
三好)当校でも昨年度に 1 クラス分の Surface Pro 12 インチを試用させてもらったのですが、立ち上がりも早いですし充電も減りにくい。Copilot からのレスポンスも早いので、子どもたちからも「どんどん使いたくなりました」という意見がありました。これまで使っていた端末が悪かったわけではないのですが、スペックが高いほど活用も進むわけで、教育現場での端末選びはますます重要になってくると思いますね。
――スペックだけでなく、OS の選び方も重要な観点だと思います。Windows を選ばれていることには、どのような理由があるのでしょうか?
三好)大学進学や就職活動の場面では、圧倒的に Windows PC を使う機会が多いのが実情です。だからこそ、学校教育の段階から Windows に慣れ親しんでおくことは、生徒たちの将来にとって大きな意味を持つと考えています。他社の OS の端末も操作性という点では魅力的ですが、社会に出てから最も広く使われているのはやはり Windows ですから。
依藤)保護者の方々も、そうした将来を見据えた端末選びには安心感を持たれますね。「この端末なら大学に進学しても、就職しても困らない」という声をよくいただきます。だからこそ私たちは、Windows を採用する意義を大きく感じています。
小池)小学校の場合は端末選びの視点がちょっと変わってきます。まず「赤ちゃんみたいに優しく扱ってね」というように、端末とのつきあい方から学んでもらう必要があるので、愛着を持ってもらわないといけません。「デスクトップの背景を自分で変えられるのは小学生の学習にはふさわしくない」といった意見もありますが、当校ではフリーにしています。シールを貼りたい子どもにも「きれいにして返すならいいよ」と許可して、子どもたちが「自分のパートナー」と感じられる意識づけをするようにしています。
依藤)デコレーションしておけばパッと見て自分の端末だとわかりますしね。愛着が湧けば大切にもしてくれますし。壊してしまったときに、シールを端末に貼っている子どもはとても申し訳なさそうに持ってくる傾向がある気がします。
小池)もうひとつ、小学校の端末選びの基準としては、駆動時間ですね。私たち大人でも時折充電を忘れることがありますから、子どもたちならなおさらです。充電がなくなって授業が止まってしまうといったことがないように、端末選びはもちろん、モバイル バッテリー ステーションを備えるなどインフラの工夫も必要だと思います。
――端末を使った学習シーンでは、ペン入力などキーボード以外の入力方法も併用できることが望ましいのでしょうか?
依藤)まさにそう思いますね。数学の授業で数式をタイピングするのはなかなか難しいですから、ペン入力ができた方がいいですね。Surface ペンは軽いですし紙にボールペンで書くのと同じような感覚で書けるので、子どもたちからも好評です。OneNote に保存しておけば手書きのものも検索できますから、復習もしやすいと思います。
三好)小論文の添削指導時には構想メモを添付するように取り決めているのですが、ペンを使えば気軽にメモを取れますよね。私自身も授業で説明する際に本文に線を引いたり丸をつけたり、教科書に書き込みできるのでとても助かっています。
依藤)私も、板書計画をつくる際にペンで数式を書き入れたり、職員会議資料の PDF に訂正箇所をチェックしたりといった使い方をしています。
小池)小学校の段階だと、漢字の書き方を学習する段階なので、ペン入力はその先で必要になる機能かな、という印象です。ただ、Surface ユーザーとしては、お二人の話を聞いていてとても羨ましく感じています(笑)。
個人的には、スペックの高い端末を使いこなす体験というのは、仕事の楽しさにもつながると思っています。AI による作業の効率化といっても、時間をどれだけ削減できるかといえばそこまで大きな効果はないかもしれません。ですが、スペックの高い端末で AI を使いこなすことで、「よし、やったぞ」という気持ちを味わえる。ハイスペックな端末はそういったエモーショナルな効果も大きいのではないかと思います。
――最後に、全国の先生方に AI 活用のアドバイスをお願いします。
三好)「もはや AI は特別ではない」という前提で取り組むのがいいのではないかと思っています。当校の場合も「なんだか難しそう」と言っていた周りの教員も、実際に使ってみたら「こんなものなのか」という反応に変わるんです。教育現場に限らず、AI は社会のなかで普通に使われています。あくまで私たちを助けてくれる便利なツールとして捉えればいいのではないかと思います。
依藤)Copilot の「エンタープライズ データ保護」機能のようなセキュリティもどんどん向上していますから、さらに敷居は下がっているのを感じます。どれだけリテラシーを教えても子どもたちは失敗しますから、安心して使ってもらえる環境があることは重要だと思います。AI を使って効率化して、教員は子どもたちに向き合う時間をつくれたらいいと思っています。
小池)小学校 2 年生に AI を使わせたときに気がついたのですが、彼らは AI に向かって「ありがとう」「バイバイ」といった声を自然にかけるんですね。その距離感のつくり方は、良くも悪くも子どもたちから学べる部分だと感じました。リテラシーを学ぶことと批判的な距離感を保つこと。そのうえで AI とうまくつきあっていくことが大事なのだと思います。
座談会を通じて見えてきたのは、AI が教育現場の仕事を変えながらも、教育の本質そのものを置き換えるものではないということです。
子どもたちが自分の考えを持ち、他者と関わり、社会のなかで自分の力をどう生かすかを考える。その学びを支える教師の役割は、AI 時代においてますます重要になっています。AI は教師の代わりではなく、教師と子どもたちがより深く向き合うための新しい伴走者なのです。
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