東京大学×クアルコム×マイクロソフトが開催「AI プログラミングハッカソン」

2026 年 7 月から 8 月にかけて、東京大学の授業の一環として「AI プログラミングハッカソン」が開催されました。東京大学、クアルコムジャパン、日本マイクロソフトの連携をきっかけに実現した本取り組みでは、学生たちがチームごとにアイデアを出し合い、ローカル AI を活用したアプリケーション開発に取り組みました。本記事では、授業や最終発表会の様子とともに、NPU を活用したローカル AI 開発の可能性を紹介します。
国内でも先進的な産学連携として実施
本取り組みは、クアルコムジャパンと東京大学がQualcomm Academy連携協定を結んだことをきっかけに始まった共同取り組みの一つです。ハッカソンは、7 月 4 日(土)の Day 1 を皮切りに、演習や途中経過の発表を行う Day 2、Day 3 を経て、8 月 1 日(土)の Day 4 で最終成果発表を行う構成で実施されました。
参加者は 28 名で、8 チームに分かれて企画・開発に取り組みました。期間中、参加学生には日本マイクロソフトから、Snapdragon を搭載した Copilot+ PC の Surface Pro (第 11 世代) – Snapdragon を貸与。各チームは、Surface Pro が持つハードウェア性能を活用しながら、ローカル AI を生かしたサービスやプログラムの企画・開発を進めました。

最終発表までの実質的な開発期間は限られており、期末試験やレポートの時期と重なる中で、各チームが企画、開発、検証を進めました。技術面での相談やメンタリングには、クアルコムジャパンと日本マイクロソフトのメンバーも参加し、学生たちのアイデアを形にするための支援が行われました。
最終日の発表ではレベルの高いアプリケーションが多数登場
全3回の授業を経て 8 月 1 日(土)には最終発表会・表彰式が行われました。プレゼンテーションの持ち時間は 20 分。その中で、各チームがなぜそのアプリを開発しようと思ったか、どのように開発したか、そして実際にデモンストレーションを通じてどのように使えるのかを披露しました。
【チーム別の発表アプリ】

全発表が行われた後、審査員によって順位が付けられ、結果の発表が行われました。
優勝は、顔出しの不安に向き合った「RealFace NPU」
審査員による審査の結果、1 位に輝いたのは、チーム H の「なりたい姿で、その場で、手元だけで。『RealFace NPU』」です。これは、Web カメラで捉えた本人の姿から頭部や姿勢の変化を検出し、事前に用意した別の顔写真へリアルタイムに差し替えるサービスです。動画配信や Web 会議などで顔を出すことに抵抗がある人でも、自然な映像表現を通じて発信できることを目指して開発されました。

本アプリの特徴は、単に顔を変換することではありません。生成 AI による架空の映像表現が広がる中で、発表者は「本物の人間が話していることからくる安心感」に着目しました。AI を活用しながらも、話している本人の存在感やライブ感を損なわず、安心感のある動画発信を実現することが企画の出発点となっています。
技術面では、頭部や姿勢の検出には NPU を、顔生成周りには CPU や GPU を活用し、クラウドにアクセスせずローカルで処理する構成としました。クラウド AI を利用する場合と比べて遅延を抑えやすく、通信環境に左右されにくい点も特徴です。発表当日はデモンストレーションも行われ、1 枚の顔写真をもとに、Web カメラで捉えた顔の向きや表情に追従させる仕組みに審査員の関心が集まりました。

開発では、Copilot、Gemini、Codex、Claude Code などの AI ツールを用途に応じて使い分けました。限られた時間の中で構想を具体化し、実機上で動く成果物に仕上げた点は、AI 時代の開発スタイルを象徴するものでもあります。
優勝チームのコメント
「自分のチームが優勝すると思っていなかったのでとても驚きました。おそらくデモンストレーションで大きなインパクトを与えられたのではないかと思っています。時間的な制約から大変なこともたくさんありましたが、AI を活用しながらなんとか仕上げることができました。お借りして初めて Surface を触りましたが、サクサクと動いて、持ち運びもしやすいです。タッチ操作ができるのは驚くほど便利ですね。理系の学生はタブレットを持ち歩いてノートを取りますが、Surface であればこれ一台で済むのでとても重宝します」。
「なかなか NPU を使う機会がなかったので、良い経験になりました。ハッカソンでの発表で誰かに見せることを考えて、みんなが『使ってみたい』『面白い』と思えるかを大切にしました。普段の研究とは違うことに取り組んだので、技術的な難しさを感じることもありましたが、1 位を取れてよかったです。Surface は初めて触りましたが、他のパソコンにはない機能がたくさん搭載されている点が良かったです」。

表彰式の様子
文章支援、ジェスチャー操作、健康管理まで広がるローカル AI
2 位となったチーム G は、Windows 上のさまざまなアプリで利用できる文章アシスタント「LITA」を開発しました。校正や翻訳、文章提案などをローカル AI で実行することで、機密情報を含む文書の編集を省力化できる点をアピールしました。入力箇所の近くにポップアップウィンドウを表示して素早く支援するなど、実際の業務利用も想像しやすい実装です。

3 位となったチーム C は、Web カメラの前で手を動かすジェスチャーによって操作を行う「AI 時代の Interface」を発表しました。手の骨格や姿勢変化を認識し、定義済みの操作を実行する仕組みにより、マウスやキーボードに代わる新しい入力体験の可能性を示しました。料理中や作業現場、医療施設、CAD など、手を使った直接操作が難しい場面での活用も想定されています。

このほかにも、文字の書き順が分からなくなる困難を抱えた人をサポートする「WriteMirror」、試着体験を支援する「ZeroFit」、カメラ映像から心拍数や呼吸数、心拍変動を推測する「PulseMirror」、身体動作を分析して改善点を提示する「Taido」、熊の声を検知して警告する「BearVoiceAlert」など、多様なアプリが発表されました。文章作成、アクセシビリティ、ヘルスケア、スポーツ・身体動作の学習支援、野生動物対策など、ローカル AIの応用領域の広がりが示されました。
審査員からは「どのチームも素晴らしく甲乙つけ難い」との意見もあり、他のチームにもそれぞれ賞が与えられました。
AI プログラミングハッカソン関係者のコメント
AI プログラミングハッカソンに携わった東京大学の池田教授、クアルコムの井田氏、日本マイクロソフトの新郷のコメントを紹介します。
東京大学 池田教授

東京大学
大学院工学系研究科電気系工学専攻
池田 誠 教授
「今回は、Snapdragon 搭載の Surface を使う以外に特に制約は設けず、学生たちに自由にやってもらいました。初日に Qualcomm と Microsoft の方々にメンタリングをしてもらいながらアイデア出しをしてもらい、そのアイデアをいかに実現していくかに重きを置いた取り組みです。1 か月の間で実質授業は 3 日間だけ。しかも期末試験やレポートの時期と被っていました。そんな中でみなさんうまく調整してやってくれたと思っています。
ローカル LLM や NPU の存在はまだまだ一般的ではないと思いますが、ローカルでできるということはかなり大きいと思っています。Snapdragon が搭載されていることで NPU が使えて、そこでローカル LLM が動くというのはとても大きなことです。こういった機会を通して、学生が『自分でも開発が簡単にできるんだ』と思ってもらえたら、この授業の大成功かなと思っています。
ぜひ、何らかのかたちで来年も継続していきたいです。この分野は日進月歩で、明日には状況が変わっているような世界だと思います。そういう意味では、来年は来年の状況に応じたテーマ・環境設定ができればと思っています。学生たちに良い経験をしてもらえるようなものにしたいです。」
クアルコム 井田氏

クアルコム シーディーエムエーテクノロジーズ
営業統括本部
統括本部長
井田 晶也氏
「このイベントを通して、皆さんが素晴らしいアイデアをたくさん出してくださいました。我々としても『ローカルでこういうこともできるんだ』という気付きが得られ、非常に手応えを感じました。プレゼンテーションが上手なチームや着想が面白いチームなど、良さが千差万別で、本当に順位をつけるのが難しかったです。中でも、優勝したチームHの皆さんは本当に素晴らしかったです。今すぐにでも商用に切り替えられるのではないかと思えるようなソリューションでした。
マイクロソフトが提供している Copilot+ PC は、パーソナルコンピューターにおける AI の利活用を推進する上で、とても優れたものだと思っています。Snapdragon ブランドで提供している PC 用 CPU は、現時点で100% Copilot+ PC の要件を満たしています。これからの AI PC を考えた時に、AI を利活用する上で、NPU やバッテリー、パフォーマンスなど、PC としての最低限の基準(レギュレーション)が必要です。そういったことをすべて組み合わせることによって、ローカルでの AI 活用が実現していくと思っています。そこをパーソナルコンピューターがどこまでできるか、クアルコムとしてチャレンジしていきたいと思います。また、ぜひその学生の方々とも、産学共同でいろいろな形の取り組みができたら素敵だなと考えています。学生さんたちの今後にも期待したいです。」
日本マイクロソフト 新郷

日本マイクロソフト 業務執行役員
パートナー事業本部 コーポレートソリューション営業統括本部
モダンワーク & Surface営業本部 本部長
新郷 史和
「みなさんの日々の AI 使用量がどんどん増える中で、「これはローカル AI で処理したい」というケースも増えていると思います。まだクラウド AI とローカル AI の区別が付いていない方もいるかもしれませんが、ユーザーがそこを意識せずとも使えるローカル AI を実現できたらいいなと思っていたので、今日はそこで学生さんからアイデアをいただきました。
学生さんたちの方が AI を使い始めてから時間が経っていると思いますし、何よりその着眼点に驚かされます。中でも、アクセシビリティや社会課題の解決のために考えられたソリューションは、とても新鮮で学びになりました。今回感じたのは「やはり最後は人なのかな」ということです。AI は全てを解決できるわけではなく、「何を解決したいか」「何が問題なのか」はあくまで人起点だと、今日改めて感じさせられました。学生さんたちは社会人になっても、今回のような発想を持ってやっていただきたいと思います。
クアルコムさんの強みは、モバイルの世界で長くチップを開発されてきたことです。熱くならず、低消費電力で、朝から晩まで AC アダプタを持ち歩かずにパソコンを使える世界を実現してくれました。そこがモバイルデバイスである Surface と上手くマッチングできたと考えています。
ローカルで使える AI のアプリケーションは、今後もっともっと増えていくでしょう。トークンの従量課金をしている企業は、コスト面で困っている方もいらっしゃると思います。そんな中で、ローカル AI を活用できればさらに AI の世界が広がっていくはずです。今回初めてクアルコムさんのおかげで AI ハッカソンに携わる機会をいただきましたが、他でもまたハッカソンを実施できたらと考えています。」

AI 開発の学びを支える Snapdragon 搭載 Surface
今回のハッカソンでは、アイデアの面白さだけでなく、AI モデルやアルゴリズム、ライブラリをどのように選定するかという技術判断の重要性も示されました。AI コーディングによって開発のハードルが下がる一方で、商用利用時のライセンスや権利面、安心・安全に使える設計への配慮も欠かせません。学生たちの発表は、ローカル AI の可能性とともに、AI 時代に求められる開発リテラシーを改めて感じさせるものとなりました。
Snapdragon 搭載 Surface Pro には、AI 処理専用のチップである NPU が内蔵されています。NPU を活用することで、画像生成や音声処理、リアルタイム翻訳などの AI 機能をデバイス上で処理でき、通信環境に左右されにくい快適な利用が可能になります。また、AI 処理を専用チップに任せることで本体への負荷を抑えやすく、バッテリー駆動時間の面でもメリットがあります。AIを活用した授業や開発演習において、Snapdragon 搭載 Surface Pro は有力な選択肢となります。
Join the conversation