2015年8月24日 1:04 AM

Windows 10 に搭載される 2 つの Webブラウザ、Microsoft EdgeとInternet Explorer 11

※この記事は日本マイクロソフトのエバンジェリストによる Windows 10 の解説記事です。
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1995年に公開されたInternet Explorer 1以来、マイクロソフトは20年ぶりに新しいWebブラウザ「Microsoft Edge」をリリースしました。Microsoft Edgeを開発するに至った経緯やその特長、Internet Explorer(以下、IE)との関係性に触れながら、今のマイクロソフトがWebブラウザをどう考えているのかを、どんなWebブラウザを目指しているのかをお伝えしたいと思います。

Internet Explorerのサポートポリシーの変更
IEのサポート期間をご存じでしょうか。
Windows 10の提供が始まった2015年7月29日時点では「そのIEが動作するOSのライフサイクルに準拠する」これがIEのサポートの基本的な考え方です。つまり、IE8はWindows VistaとWindows 7で動作しますが、Vistaで動作するIE8はVistaのサポートが終了する2017年4月に、7で動作するIE8は7のサポートが終了する2020年1月にサポートが終了します。

2014年8月7日、このサポートポリシーが「2016年1月12日(米国時間)を過ぎると、各OSの最新版のIEのみをサポートする」形に変更されることが発表されました。つまり、Windows 7 SP1では、最新版のIEであるIE11のみをサポートすることになります。詳細はこちらの「Internet Explorer サポートポリシー変更の重要なお知らせ」をご覧ください。

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今回、サポートポリシーの変更に踏み切ったのには3つの理由があります。

1. セキュリティ対策
インターネットを通じたセキュリティの脅威に対抗するために、マイクロソフトではIEの潜在的な脆弱性を日々、修正していますが、提供当時の環境を前提として開発された古いバージョンのIEでは、定期的な更新プログラムの適用だけでは対応が難しいケースが現れるようになってきました。NSS Labs によれば、悪意のあるソフトウェアに対する保護件数は、IE8では69%でしたが、IE11では99%以上になっています。Webブラジング環境を最新のIEにしていただくことで、より安全かつ便利にインターネットをご利用いただけます。

2. 開発や検証の負担軽減
2015年7月29日現在、Windows 7ではIE8/9/10/11の4つのバージョンのIEをサポートしています。言い換えれば、WebサイトやWebサービスの提供者が動作環境としてWindows 7を選択する場合は、これらのIEを前提としたWebの設計、開発をしなければならず、また、提供開始後もこれらのIEでの動作検証が必要になります。動作するIEを最新のIEのみに絞ることで、Webを提供する側の開発や検証に必要なリソースの負担が軽減されます。

3. 最新技術への対応
Webの技術は日々、進化を遂げています。新たなAPIや要素が提案され、改良と検証を重ねて、やがて標準化団体の草案、勧告と進めば、開発者は早くその新しい技術を試してみたい、提供者は自社のサービス、サイトに早く取り込みたいと考えるでしょう。より新しいIEであればあるほど、より新しいWeb技術に対応しています。

株式会社モリサワが提供するWebフォントサービス「TypeSquare」。フォントの種類、大きさ、行間などをシミュレートして、実際にWebサイトがどのようになるのかをシミュレートすることもできる。フォント情報はクラウドから提供されるので、OSやデバイスのシステムフォントに依存せず、共通のフォントでWebコンテンツをユーザーに届けることができる。

TypeSquareでのシミュレーション

TypeSquareでのWebFontのシミュレーション

Microsoft Edgeリリースへ
IEのサポートポリシーを変更した理由は、そのまま、マイクロソフトがMicrosoft Edgeという全く新しいWebブラウザを開発するに至った理由につながります。

IEのレンダリングエンジン「Trident」を搭載した最初のIEは、サッカー日本代表がワールドカップ本戦の初出場を決めた1997年に公開されたIE4でした。ほどなくして、HTML 4.0が勧告となり、2年後にはこの後、長く続くHTML 4.01がW3Cから勧告されます。それから20年近くが経過した今、HTMLはHTML5が主流となり、さらにはWHATWGが進めるHTML Living Standardのように常に最新のHTML仕様をアップデートしていく流れが生まれました。

一方、HTML5では数多くのAPIが実装されたため、JavaScriptの重要度が飛躍的に高まりました。デバイスに目を転じてみても、IE4当時には存在していなかったスマートフォンやタブレットという新しいデバイスでWebを見る、Webを使う人はもはや珍しくありません。従業員が個人的に所有しているスマートフォンを職場に持ち込み、それを業務に使用することを意味するBYOD –Bring Your Own Deviceが日本の企業社会で一般的になれば、社内Webシステムを抜本的に見直す必要性も出てくるでしょう。

このような技術革新や市場の変化、日々アップデートされるWeb標準仕様、セキュリティの脅威に対応すべく、Tridentも更新を繰り返してきましたが、根本的に対応するためには、新しいWebブラウザが必要になる。それがMicrosoft Edgeの開発に踏み切った理由です。

Microsoft Edgeというブラウザ
Microsoft Edgeが最も大切にしているコンセプトは「Interoperability -相互運用性」です。Google ChromeやApple Safari、Mozilla Firefoxとも相互に運用できるブラウザであること、PCのWebサイトはもちろん、スマートフォンやタブレットを前提に制作されたWebサイトとも相互に運用できること、Microsoft Edgeはこの相互運用性を保つことを前提に開発されています。

その思想はIEBlogの「Living on the edge – our next step in helping the web just work」でこのように示されています。

In cases where these changes necessarily differ from standards, we’re following through with standards bodies and other browsers to update specs and implementations to reflect the interoperable behavior. -Web 標準から外れる変更に迫られたとき、我々はWeb標準の仕様、他のブラウザの更新内容、相互に運用する挙動にあわせる。

相互運用性はマイクロソフトのみで実現することはできません。W3CやECMA internationalのような標準化団体やほかのブラウザベンダーと協力体制は不可欠です。たとえば、マイクロソフトが開発し、W3Cに提案、2015年2月にW3C勧告となったPointer Events APIはMozilla、Operaに続いて、Chromeが実装することが発表されていますし、Mozillaが開発したJavaScriptのサブセット「Asm.js」はEdgeのJavaScriptエンジンである「Chakra」に載ることが明らかになっています。相互運用性を実現しようとする姿勢はMicrosoft Edgeのユーザーエージェントからも見て取ることができます。

Windows 10でのユーザーエージェント文字列

Windows 10 32bit: Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/42.0.2311.135 Safari/537.36 Edge/12.10162

Windows 10 64bit: Mozilla/5.0 (Windows NT 10.0; Win64; x64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/42.0.2311.135 Safari/537.36 Edge/12.10162

最新のWeb技術への対応も積極的に進めています。Dolby AudioやGamepad API、HLSといったマルチメディア系のAPIからHTTP/2やHSTSなどのネットワーク系、CSSもRegionsやExclusionsなどを採り入れています。先頃、最終仕様となったECMAScript 2015(第6版)への対応状況も「JavaScript moves forward in Microsoft Edge with ECMAScript 6 and beyond」の中で明らかになりました。現在の各要素、各APIの対応状況はMicrosoft Edge | Dev (beta)のPlatform Statusをご覧ください。

ChromeともSafariともFirefoxとも、PCでもスマートフォンでもタブレットでも、同じマークアップをすれば共通の表示、動作をし、Web技術の最先端をいち早く採り入れるブラウザであること、そんなWebブラウザをMicrosoft Edgeでは目指しています。ちなみに「Edge」という名称には”Living on the Edge”。常にWebの先頭を走り続ける、そんな想いが込められています。

このようなWebブラウザとしてのしっかりした土台の上にPCはもちろん、タブレットやスマートフォンでのユーザーエクスペリエンスを考慮してデザインされたシンプルなUIが実装されています。お気に入り、リーディングリスト、履歴、ダウンロードを一元管理できる「ハブ」やユニバーサル Windows プラットフォーム アプリケーションとの「共有」などに、効率と応答性を重視したその新しいUIが感じられるはずです。機能面でもペンやタッチ入力の操作性を活かしたノート機能が特長の一つになっています。Microsoft Edgeの新機能についてはMicrosoft Edge Webサイトで詳しくご確認いただけます。

【モダンUIとなったMicrosoft Edgeのツールバーとメニュー】
Microsoft Edgeのツールバー

【Microsoft EdgeのWebノート機能。ペンやマーカーでコメントがつけられる】
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【つけたコメントはOneNoteで共有したり、保存してお気に入りに登録できる】
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Internet Explorerというブラウザ
Interoperability -相互運用性とともにマイクロソフトが大切にしているのが、「Compatibility -後方互換性」です。過去に開発された旧いIEを前提に設計されたWebシステムはどうなるのか?その後方互換性のために、Internet Explorerは引き続き提供されます。

IEの後方互換性のための重要な機能は、IEのバージョン毎のレンダリングルールを切り替える仕組みである「ドキュメントモード」とIE11をあたかもIE8のように振る舞わせる(=エミュレートする)「エンタープライズモード」の2つです。これらの機能の使い方を含めたIE11への移行については弊社のエバンジェリストである物江が詳しく解説していますので、物江のブログ「準備は OK? サポート終了までに知っておきたい古い Internet Explorer 向けに作成された Web コンテンツの最新 Internet Explorer へのマイグレーション方法」をご覧ください。また、旧バージョンのIEで動作しているWebシステムへのIE11の影響に関する調査を、数多くのコンサルティングやシステム インテグレーションを手がける野村総合研究所様に「Internet Explorer 11 影響調査報告書」として公開いただいています。

【IE11のドキュメントモード】
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なお、Internet ExplorerはIE11がWindows 7とWindows 8/8.1における最後のメジャーバージョンとなることが明らかになっています。セキュリティ対策などのマイナーアップデートは今後も行われますが、新機能が追加される予定はありません。

Windows 10のブラウザ
Windows 10にはMicrosoft EdgeとInternet Explorer 11の2つのブラウザが搭載されますが、それぞれのレンダリングエンジンは、IE11がTrident <mshtml.dll>、Microsoft EdgeがEdge <edgehtml.dll>と異なりますので、異なる2つのブラウザが搭載されているとお考え下さい。実際、EdgeレンダリングエンジンではIEとの互換性のためのソースコードを22万行削除し、相互運用性や新機能のためのコードを30万行以上追記しているそうです。

ソースコードから削除された、Edgeで対応されないIEの機能はMicrosoft Edge Dev Blogの「A break from the past, part 2: Saying goodbye to ActiveX, VBScript, attachEvent…」にまとめられています。

この中でもっとも気になるのはActive Xの非対応だと思います。Edgeレンダリングエンジンに内蔵されたAdobe Flash PlayerとPDF レンダリングを除き、Microsoft Silverlightを含む、ブラウザ用のプラグインはMicrosoft Edgeでは動作しません。Active X非対応に踏み切った理由は相互運用性に欠けるためです。1996年にWindowsのCOM/OLEをWebページに埋め込むために提供されたバイナリの拡張モデルであるActive XはAndroidやiOSで利用することができません。Active Xコントロールを利用しているコンテンツやサービスを今後もWebで提供される場合はWeb標準技術への移行をご検討ください。

Windows 10ではMicrosoft Edgeが規定のプログラムとして設定されていますが、他社のブラウザを含め、既定のブラウザを変更することは可能です。また、提供者側からも互換性リストへの登録やグループポリシーの設定によって、使用するWebブラウザをIEに指定することが可能です。

マイクロソフトでは、コンシューマ向けの一般的なWebサイトのブラウジングにはMicrosoft Edgeを、IEとの後方互換性が必要な業務WebシステムではIEを利用いただくことをご提案しています。

edge_image6Windows 8.xが起動している時間の53%を、iPadでは42%を、ユーザーはWebブラウジングに費やしていると言われています。コンシューマ向けのデバイスにPC、スマートフォン、タブレットが混在する今、ネイティブアプリと同じか、場合によってはそれ以上にWeb上のコンテンツ、アプリ、サービスが利用されています。ユーザーは様々なブラウザを使っているとも言えるでしょう。

まとめ
ベンダーロックインと呼ばれる、ある特定のベンダーの、特定の技術に依存した製品やサービス、システムは終わりを迎えようとしています。Webを見るデバイスもPCに加え、スマートフォンやタブレットの存在感がさらに増していくでしょう。

現在、マイクロソフトが進めるオープンソース化、クロスプラットフォームはまさにこれを踏まえた戦略で、だからこそ、新しいWebブラウザとして、Interoperabilityを前提としたMicrosoft Edgeが生まれました。マイクロソフトでは「Living on the Edge」をスローガンに、Legacy WebからModern Webへの移行をこのMicrosoft Edgeとともに提案していきます。みなさまが作られるWebもModern Web -デバイスやブラウザに依存しないWebを目指して頂けると幸いです。

参考情報
Microsoft Edge Webサイト
Microsoft Edge デベロッパーセンター
Microsoft Edge | Dev (BETA) (英語)
Microsoft Edge Dev Blog(英語)

執筆

yoshika

日本マイクロソフト株式会社
デベロッパエバンジェリズム統括本部
テクニカル エバンジェリスト
春日井 良隆